広島地方裁判所呉支部 昭和34年(ワ)118号 判決 1960年6月24日
原告 新甲健三
被告 久安芳子 外二名
主文
被告三名は原告に対し各金一一万六六六六円及びこれに対する昭和三一年一月一日から支払済みまで年五分の金を支払え。
訴訟費用は被告等の負担とする。
この判決は原告が被告等に対し各金三万円の担保を供するときは仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人等は、主文第一、二項同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、その請求原因として、
一、原告は昭和二五年一一月一三日訴外小島真一に対し金三〇万円を利息年五分同年一二月から昭和二六年五月まで毎月末日金五万円宛支払う約定で貸付け、被告等は同日右債務を保証した。
二、ところが右債務を履行しないところから、当事者交渉の結果原告、小島間に昭和二八年二月八日右三〇万円に対する昭和二五年一一月一三日から昭和三〇年一〇月末日までの約定率による利息、損害金を加えた金三五万円の債務を昭和二八年一二月末日金五万円、同年三月から七月まで各月末日金五〇〇〇円宛、同年八月から完済まで各月末日金一万円宛払うこととし、右支払いを引続き二回以上怠つたときは残額は一時に請求するとの和解が成立した。
三、しかるに右和解債務も履行しないので昭和三四年七月三日強制執行した結果金二八八〇円を得たのでこれを昭和三〇年一一、一二両月分の損害金に充当した。
四、そこで被告等各自に対し右三五万円を保証人の数で分割した一一万六六六六円及びこれに対する昭和三一年一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合の遅延損害金の支払いを求める。
と述べ、
五、被告等の抗弁に対し
(一) 本件貸付当時小島は廃業して商人でなかつた。
(二) 貸付以来間断なく被告等に債務履行を請求し、承認を得ていたので消滅時効にかからない。
と答え
立証として証人落合士郎、新甲数江及び原告本人の尋問を求めた。
被告等訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁及び抗弁として
一、原告の主張事実はすべて認める。
二、しかし原告の本訴請求は次の理由で失当である。
(一) 昭和二八年二月八日の和解は更改と認めるべきであり、これにより小島の旧債務は消滅し、和解に関与していない被告等の保証債務も同時に消滅したものである。
(二) 仮にそうでないとしても本件金員は小島が呉服販売を業としている際その営業資金として借入れたものであるから商行為に因つて生じた債権として五年の消滅時効にかかるものであるところ、前記和解契約により昭和二八年五月一日から債権全額につき時効期間が始まり、前記強制執行前に債権は時効期間満了により消滅している。(小島については民法第一七四条ノ二第一項の適用があるが、和解に参加していない被告等には右規定の適用がない。)
と述べ
三、原告の時効中断に関する主張を否認し
立証として証人小島真一及び被告三名本人の尋問を求めた。
理由
一、原告主張事実(原告と小島真一との間の消費貸借契約及びこれを被告等が保証したこと、並びに原告、小島間の和解契約)は当事者間に争いないところである。
二、そこで被告等の抗弁として主張する事実について判断する。
(一) 被告等は右和解契約をもつて前記消費貸借契約の更改があつたものであると主張するが、右和解契約の内容からみて未だ更改と認めるに足らず、このことは和解後の昭和二八年一〇日頃、関係者五名が呉市天応町所在の森本某方に寄合つて保証人三名が毎月各一、〇〇〇円宛支払う等の案が出たこと(このことは証人小島真一の証言によつて認められる。)からも裏付けられる。(右認定に反する証人小島真一の証言は信用しがたい。)
(二) 被告等は債務は消滅時効にかかつたと主張し、(前記和解契約に被告等が参加しないので無関係といいながら、時効期間の計算については和解契約に従つて主張しているので小島の消費貸借債務が時効により消滅した結果保証債務も消滅するというのか被告等の保証債務が主債務と独立に時効により消滅したというのか必ずしも明確でない。)原告は債務承認により消滅時効にかからないというので考察する。
証人小島真一の証言によれば本訴提起の一ケ月前(本件記録から昭和三四年六月頃と認められる。)主債務者小島は原告の請求を受けて債務を認め猶予方を求めていることが認められるので、これにより時効は中断し、この効力は民法第四五七条第一項により保証人に及ぶので、被告等の消滅時効の抗弁は他の点を判断するまでもなく採用しがたい。
三、原告は本訴において被告等に対し前記和解契約条項に従つて請求をしているが、被告等は右和解契約の当事者でないので、被告等が和解条項に直ちに拘束されることにはならない。この点に関する原告側の見解は明確ではないが、当裁判所は次の通り考える。
保証債務は主たる債務に対していわゆる附従性があつて、主たる債務より重くなることはあり得ない(民法第四四八条)。そこで債権者と主債務者との間に保証人を措いて和解契約が成立したときは、その内容が主たる債務に関し重くなつたときは保証人はこれに拘束されないが、軽くなつたときは附従性から生ずる反射的効果として保証人の債務も軽減された範囲に減縮される意味で和解契約の効果が及ぶものであつて、この際和解契約により債務が重くなつたか軽くなつたかは特に信義の原則の支配する契約法上では和解契約全体について判断すべきものであつて、個々の和解条項について検討すべきではないとの見解をとる。
以上の見解によつて本件を検討するとき前記和解契約によつて小島真一の主債務は旧の条項より軽減されたと認められるので右和解は前記の意味で被告等に効力が及ぶものというべきである。(和解契約によつて定めた三五万円の内利息損害金の性質を帯びた五万円について問題があることは後記の通りである。)
四、そうすると被告等から支払いの主張のない本件では被告等は各右三五万円を被告等の数で割つた金一一万六六六六円(円未満切捨)及びこれに対する昭和三一年一月一日から支払済まで民法所定の年五分の割合の遅延損害金(前記和解契約に関与していない被告等としては直ちに内金五万円に対する不払いについて責があることにはならないが証人小島真一の証言及び被告久安、同佐藤の供述を綜合すれば被告等は前記昭和二八年一〇月頃の話合いの際和解契約の内容を知つたことが認められるので、これによりその后は債務不履行の責を負うものと解する。)の支払義務があることとなるので、原告の本訴請求はすべて相当として認容し、民事訴訟法第八九条第九三条第一九六条を適用して、主文の通り判決する。
(裁判官 辻川利正)